見る前に跳ぶんだ

日々の雑考。方向性はこれから考えます。

再生可能エネルギーの先進事例、ギュッシングって実際どんなところ?

たまには研究のことでも!

 

実は今週水曜から一泊二日でオーストリアはギュッシングまで視察に行ってきました。

大学のあるチューリッヒからはグラーツまでは直行便があり、そこからは車で1時間程度と思っていたより楽々でした(^ω^)

 

さて、このギュッシングですが、実は近年ベストセラーになった藻谷浩介さんの里山資本主義で読んで以来、ずっと気になっていました。

この町は1980年代にオーストリア最貧と言われていましたが、地域のバイオマス資源を利用して復活した事例として有名なのです。

 

 

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)

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まず、街自体についてはあまり情報を持っていなかったのですが、
街の中心にはこじんまりした城があってとても素敵な場所でした!

 

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具体的にギュッシングモデルに関して、実際には里山資本主義で読んだよりかなり行政主導のような感じがしました。
まず発祥からして、この集落がオーストリアで最貧になったことをきっかけに、政府の地域開発センターが置かれることになり、
そこにEUからも資本が入り、現在の司令塔であるヨーロッパ再生可能エネルギーセンター、及びテクノロジーセンターが設置されてこのモデルは始まっています。


そして、このモデルの大まかな流れとしては
チップボイラーの設置⇒バイオマス/スチームタービン発電所(今回は見てません)⇒チップガス化、ガソリン化プラント⇒バイオガスモデルへの変節

という感じです。


チップボイラーは1996年に建てられました。
現在、熱供給は累計で35kmに達しているそうです。また、後ほど言及しますが、この距離がお湯での熱供給の限界だそうです。

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このチップボイラー、面白いと思ったのが、熱供給を受ける顧客(地元住民およびホテルなど)の70%が現金ではなく木材で支払いを行っている点です。
これは地元での資源循環を後押しするいい仕組みですね。

 

 

次にチップのガス化プラント。
これは技術的にすごく興味深かったです。
チップ⇒水素+二酸化炭素⇒メタン
生成されたメタンは都市ガスに導管注入されています。
実はここまでが第一段階で、ここからメタンを使ってガソリン、ディーゼルなど液体燃料も合成できます。
また、最近ではバイオガスプラントで発行する二酸化炭素もメタン合成の際に再利用しているそうです。
ガス化プラントが2001年、メタン化プラントが2008年に建てられました。

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ただ気になったのはあくまでバイオマス発電によって「電気が余っている」という前提があることです。
このような複雑な合成を行うと、システム自体の効率がすごく下がるので通常しません。
(もちろん、ガソリン、ディーゼルは元が取れません)

ちなみに、木材は頻繁に手入れするとコストがかかるので基本的には放置(?)して、何年かに一回一気に刈るそうです?
これはちょっとよくわかりませんでしたw


最後にバイオメタンについて。
これは地元とも大きくかかわっています。
地元の農家で出た牧草系、家畜糞尿系、農業残渣系のバイオマスを一気に集めて処理しています。

 

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ここからバイオガス、肥料のアウトプットを得て、バイオガスは地元の製麺所(スパゲッティ)の電熱供給に使われています。
また、この製麺企業は卵をスパゲッティに混ぜる、という斬新なことをしており、結果としてそのための鶏糞がこのバイオマスプラントの原料にもなっています。
バイオガスといえば、発酵の段階ので悪臭が地元とトラブルになりやすいと聞いていたので、その点聞いてみました。
ここでは、ウィーン大学の協力を得てアルカリ性の物質?で残渣を覆うことで悪臭を激減できたようです。
別の例では風向きや距離などを考慮して立地なども地元と話しながら解決することが多いらしい、ということで
実は住民との関わり合い、意思決定について話を聞く狙いがあったのでちょっと残念です。笑
やっぱり発想が技術先行なんですね。

とはいえ、見学している間もせっせと農家さんがごみを持って来たり、肥料を取っていったりしてて、ガイドのおっさんとも仲良さげに話してたので、
地元との関係は良好なのかな、という感じがしました。


そして、このバイオガスが、ギュッシングでは今後のキーになるそうです。
ギュッシングは今のモデルの成功とともに、周囲の15のコミュニティーと共同してエネルギー供給圏の拡大を狙っています。
そのためには先ほども出た話ですが、お湯での熱供給は距離が延びると冷めてしまうため非効率なんです。

さらに、近年はオーストリア全体でチップの仕入れコストが上がっているらしく、リスク回避のためにも、バイオガスはちょうどいいそうです。
そのため、今後はバイオガスに注力し、近隣のコミュニティと協力してグリッドを構築していくそうです。

以上が、ギュッシングモデルについてです。

ついでに、町のことについてもう少し。
背景として、この町は第一次世界大戦の結果、オーストリアハンガリーが分裂した渦中にあり、周りの有力なコミュニティがハンガリーに編入されたため、ギュッシングは産業がなく、農地も、こま切れの普通にやったら勝てない非効率なものとなってしまったそうです。

その影響があってかなくてが、イノベーティブな農家さんが多いそうです。
ガイドのおっさんは、この町では米以外の作物は大体試した、といっていました。
また、有機農法を用いる農家が多く、最近一番アツいのは移住してきた台湾人が作っている有機栽培の豆腐だそうです。笑


以上、ギュッシングレポートでした!